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第7号 1/25 2003
年頭のご挨拶

 新年明けましてお目出度うございます。旧年中はいろいろと貴重な症例をご紹介頂き、 アイケア名古屋の職員一同感謝致して居ります。
 眼科に於いても治療技術は近年長足の進歩をとげています。 特に、黄斑疾患の治療法の進歩には目を見張るものがあります。 しかし、その中には良い様に見えていて、組織を害したり、 旧来の方法に劣る効果にとどまっているものも少なくありません。 例えば、特発性黄斑円孔や、黄斑浮腫を治療する硝子体手術の際に用いていたインドシアニン・グリーン(ICG)があります。 少し前、硝子体手術時に網膜の内境界膜(ILM)を剥離すると、黄斑円孔が容易に閉鎖し、黄斑浮腫もより早く、 高率に消退あるいは軽減することが判って来ました。 しかし、手術用顕微鏡下でもこのILMを識別することは非常に困難です。 そこで、造影剤として臨床で使用されているICGを薄めてILMを染める技術が開発されると、 手術法は非常に容易になり、この術式は完成したと考えられました。 ところが、このICGには従来安全と考えられていた濃度でも傷害が生ずる症例のある事が判り、 大変な問題になっています。 この様に、良いと思われている新しい方法にも、どこに落とし穴があるか判りません。新しい方法で手術する場合には、 初期には臨床実験を行っている部分もあります。 この点に気をつけ、既に古い方法として捨てられている方法の中にも良い点、 優れた点があればこれをリバイバルさせるなど、患者さんの幸せに役立つ方法を常に模索しつつ、 更にその効果を学会で、あるいは論文にて世界に問いつつ、前進して行きたいものと考えています。 皆様方のご援助をお願いし、年頭のご挨拶に換えさせて頂きます。

院長 安藤文隆
近着最新情報

加齢黄斑変性の発症は認知障害と関連する(AJO 2002; 134:828-835)
加齢黄斑変性と老人性認知障害は、加齢とともに生じる神経変性疾患とみなして51歳以上の一見して健康な9286人を調査. 年齢・性・人種・学歴・高血圧・糖尿病・喫煙・飲酒といった諸要因を調整して統計的に検討すると、 加齢黄斑変性の発症と認知障害との間には弱い関連性(association)のあることが確認された.
ICG 補助内境界膜除去黄斑円孔手術 (BJO 2003; Jan)
 40例41眼(3期または4期)の術後平均15か月の経過.円孔閉鎖率は初回手術 87.8%、視力は 58.5% で2段階以上の改善.
黄斑円孔手術での ICG による内境界膜染色は網膜を損傷する(AJO 2002; 134:836-841)
黄斑円孔(20人、20眼)の硝子体手術時に内境界膜を ICG (25mgを5mlに溶解、滲透圧 275 mOsm, pH 7.5)で染色して剥離.術後、視力の改善 がないばかりか、 7眼では視野障害(鼻側、上鼻側欠損)が発生した.剥離試料の電子顕微鏡検索では ICG 使用にかかわりなく ミュラー細胞の形質膜と網膜要素が内境界膜の網膜側にこびり着いていた.
閉経後の加齢黄斑変性 (AJO 2002; 134:842-848)
 作業仮説「エストロゲンは加齢黄斑変性の重症化を妨げる」.394人の女性患者(軽症193、重症201)を対象として、 閉経後にさまざまな目的によるエストロゲン使用の有無を調査. エストロゲン使用の既往がある患者の変性は軽症であったから、 こうしたホルモンが重症化のリスクを軽減する可能性がある.
偽落屑症候群とビタミンC (AJO 2002; 134: 879-883)
偽落屑症候群(40例)の前房中 ascorbic acid を測定した症例対照実験.対照と比較して、濃度は減少していた. 加齢に伴って生じる偽落屑の成因には、フリーラジカルが関係することを間接的ながら思わせる成績.
原発開放隅角緑内障と原発閉塞隅角緑内障とで視野障害のパターンが異なる (AO 2002; 120: 1636-1643)
POAG, PACG とで上下の視野障害のパターンが重症度にかかわらず異なる.
トリアムシノロン硝子体注射後の眼圧 (BJO 2003: Jan)
71例75眼(重症滲出性加齢黄斑変性、糖尿病黄斑浮腫)で硝子体内に 25 mg 注射、 約半年経過観察.術前平均 15.43 mm Hg から術後平均 23.38 mm Hg と有意に上昇 (21 mm Hg 以上の高眼圧は39眼52%).眼圧上昇は約2か月後にみた. 全例で降圧薬点眼によって問題は解消した.
常染色体優性遺伝子性視神経萎縮の視神経所見 (BJO 2003; Jan)
 この疾病で視神経乳頭の陥凹が起こると、正常眼圧緑内障と識別するのは困難であるとされている. 29例59眼を再検討した.
高輝度ヘッドライトは高齢者を悩ませる (BJO 2003; Jan)
 車の運転には目と手足と頭とがうまく調和して働かねばならない. 夜間は視力が減退する一方、対向車のヘッドライトの眩しさによって見え方が落ちる. ヘッドライトの輝度が増すとドライバーには安全性が増す. しかし、輝度とともにグレアは上昇し、とくに2車線の曲がり道では対向車のドライバーにとってグレアが問題になる. この問題は高齢ドライバーをことのほか悩ませるのであるが、それは若年ドライバーよりも眼内の散乱が増え、 グレアの感受性が増え、さらに眩しさから回復するのに時間がかかるからである. ヘッドランプの輝度が高くなるのはいろいろな利点があるのであるが、特に高齢ドライバーの立場からみると、 ヘッドランプが道路をどう照明すべきか、どういった方向を照明すべきかといった問題は真剣に検討すべき問題である.



診察メモ
<OCT検査でわかること 1.後部硝子体剥離>

網膜光干渉断層撮影optical coherence tomography(OCT)が診療現場で活用されるようになってから数年になる.網膜を高い解像度(20 μm)で断層撮影する、干渉信号強度をカラー表示する、非侵襲であるといった特徴を備えた検査機器である.さまざまな眼底疾患の形態診断や病態評価のために有効であるばかりか、OCTによってはじめてわかることも少なくない.そのいくつかを整理してみよう.
加齢に伴って発生する後部硝子体剥離(posterior vitreous detachment、PVD)は、直接的あるいは間接的にさまざまな眼底疾患の成因にかかわる.臨床的に完全型と不完全型とがある.
完全後部硝子体剥離(complete PVD)
よく知られるように、しばしば突発して特徴ある症状をきたす.検眼鏡や細隙灯顕微鏡で確認することができる.
不完全後部硝子体剥離(incomplete PVD、localized PVD、asymptomatic PVD、occult PVD)
精緻な細隙灯顕微鏡検査や超音波検査によって同定することができるとする意見があるが、 一般には至難(不可能)である.すなわち、剥離した硝子体皮質と網膜表面との間隙はわずかであり、 これを細隙灯顕微鏡で視認したり超音波で検出することは難しいだろう.また、一般に自覚症状をきたさない. したがって、不完全後部硝子体剥離というのは、 観念的な現象に過ぎなかったといっても過言ではないであろう.

さて、OCTによって不完全後部硝子体剥離を明確に把握することができる.網膜から100μmから200μmほど剥離した硝子体皮質の後面は、鮮明な線状信号(discrete linear signal)として描かれる. (ただし、discrete linear signalの強度はごく弱いから、いつも記録できるとは限らないのだが. われわれの経験では、装置がもつ最大強度の光を使うこと、透光体がきれいでノイズが小さいことなどの条件が満たされることに加えて、 装置ごとの微妙なあたりはずれにも依存する).
加齢に伴う不完全後部硝子体剥離は、60歳以上ではごくありふれて起こっており、 もとより完全剥離の前段階とみなしてよいであろう. 写真のように、断層画像では一定の箇所で網膜との接着が残ってトランポリン様と表現されるパターンを示す. いくつかの経線で断層撮影すると三次元的に理解することができる. こうして整理してみると、後部硝子体剥離は二つのステージに病期分類(dichotomous staging)するのが妥当である. われわれは最近、perifoveal posterior vitreous detachment (PFPVD)という新用語を導入した.
1)初期:early stage PFPVD
後部硝子体の剥離は、網膜アーケード血管領域を境界として後極側に限局する (アーケード血管領域よりも周辺側では接着を維持). そして、黄斑部では、中心窩を中心とした周囲円形部分は接着を維持する(黄斑円孔の形やサイズを規定する). またアーケード血管領域の接着は視神経乳頭に連なる.
2)後期:late stage PFPVD
黄斑部で円形に接着していた硝子体皮質が剥離する一方、網膜アーケード血管領域-視神経乳頭部の接着は維持される (この状況をPFPVDと表現するのが妥当かどうか一考の余地がある). なお、黄斑部で剥離した硝子体皮質にoperculumが生じることがある.
3)完全後部硝子体剥離
アーケード血管領域-視神経乳頭よりも周辺側で接着していた硝子体が鋸状縁まで一気に剥離する. この時、よく知られるWeiss ringが発生する (なお、OCTは網膜からたかだか1 mmくらいまでを撮影できるという機械の制約があるから、 後部硝子体剥離が完成した時のdiscrete linear signalを確認することはできない).
 以上、OCTによって理解が進んだ後部硝子体剥離の進行過程である. PFPVDのほとんどは網膜に病的損傷を残さずに生理的に推移する. ところが、時として、黄斑部に限局する遺残接着は、さまざまな黄斑部疾患 (とくに黄斑円孔)の成立病理に関係するであろう. また、アーケード血管領域や視神経乳頭での長期の遺残接着もなにかの病態発生に結びつくかもしれない. 具体的には今後の課題である.

 
 


眼科とノーベル賞  Fritz Pregl (1869-1930)

 昨秋はノーベル賞ダブル受賞というグッドニューズに国中が沸きに沸いた. ところで、眼科関係のノーベル賞の歴史はどうだろうか. よく知られるArthur Gullstrand (1862-1930)は、ウプサラ大学医学部の眼科学教授を勤めたれっきとした眼科医である. 筆者が40年前に入局した東大眼科にはグルストランドの大検眼鏡がVogtの古典的細隙灯顕微鏡とともに残っており、 操作は難しかったが細々ながら活用したのを思い出す.Gullstrandは「眼光学研究」で1911年度医学生理学賞に輝いた.
 また、「アルゴンの発見」で1906年物理学賞に輝き、レーリー均等で知られる物理学者Lord Rayleigh (1842-1919)、 「視覚に関する生理化学上の発見」で1967年度医学生理学賞を共同受賞した神経生理学者 Hartline(1903-1983)、 Wald(1906-1997)、 Arthur Granit(1900-1991)、 「視覚の中枢神経機構、弱視の成因」で受賞した現存の神経生理学者Huberと Wieselがある.
 眼科医でノーベル賞を授与されたのはGullstrandだけだろうか.調べてみると臨床検査医学のPregl(写真)がおり、 短期間ながら眼科の診療に携わったことがある.
 Pregl(1869-1930)は医学生時代、解剖と生理の実験助手になって基礎医学に興味をもった. 1894年にグラーツ大学医学部を卒業して医師開業資格を取得、最初の2年間は眼科の診療に従事した. 「I performed many difficult eye operations.....」と自伝に書いているほどだから、 眼科医としての仕事に本格的に取り組んだにちがいない.しかし、基礎研究への興味を捨てることができなくて、 医学生時代に学費捻出を兼ねて働いた生理学教室に転じて助教授になった. やがて生理機能の研究を進めるには化学についての該博な知識と技術が必要であることを痛感し、 休暇をもらってベルリン大学に国内留学して生化学を勉強した.1910年Innsbruck大学医学部の生化学教授、 1913年Graz大学の生化学教授に転じた.胆汁酸を研究テーマに選んだのだが、 実験試料がわずかしか得られないのを克服するためのさまざまな工夫をこらした. 微量天秤を工夫して生体に含まれる微量化合物の分析法開発に成功した業績によって1923年度ノーベル化学賞に輝いた. その後もさまざまな生体微量化合物の測定法を完成させた.1920年にはGraz市名誉市民になっている.

 


<編集後記>

 平成15年最初のニューズレターです.今年もできるだけ定期的に、少しでも有益な情報をお届けします. こうした仕事は小生のように一仕事済ませたものが行うのに向いているかと思っております. インターネットによって海外情報は印刷された雑誌が届くよりも早い段階で目にする事ができるようになりました 

 
大庭 紀雄

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