| アジア、アフリカの発展途上国 最近の眼科医療
アジアとアフリカの発展途上国(developing countries)の眼科医療の現状を知るべく、過去1年間に主としてBritish Journal of Ophthalmology(BJO)の『World view』に発表された論文を集めてみた.
BJOは1917年の創刊当時から『大英帝国』を代表する眼科雑誌としてアイルランド、インド、南アフリカ、エジプト、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、香港に編集委員を委嘱して特色ある論文を集め、第二次大戦後は『連合王国』傘下あるいは『大英帝国』ゆかりの発展途上国から多くの論文が送られている.
以下の報告にかいま見るように、後発諸国では栄養障害やハシカによる小児の視力障害、白内障による成人の視力障害が依然として喫緊の課題である.
インドネシア 翼状片 (prevalence and risk factors associated with dry eye symptoms: a population based study in Indonesia)
赤道直下スマトラ島の農家100戸1210人(平均37歳)を任意抽出して翼状片とドライアイを調査.翼状片の頻度は10%、20代で2.9%、50代で17.3%と加齢とともに増加し、戸外労働者の有病率が有意に大きかった.また、ドライアイは27.5%にみられ、その主要なリスク要因は翼状片であった.
インド北部 小児の視力障害(causes and temporal trends of blindness and severe visual impairment in children in schools for the blind in North India)
盲学校児童703人を調査、89.3%が事実上失明(0.05未満).疾患の局在をみると眼球全体=27%, 角膜=22%, 網膜=15%, 白内障=11%.原因は先天異常・白内障=56%、Vitamin A欠乏/ハシカ感染=28%, 遺伝病=13%.網膜疾患の比重が経年的に大きくなり、子供自身の問題(特にビタミンA不足)は減少してきた.すなわち、ビタミンA欠乏、ハシカ、先天白内障などに対処できれば、ほぼ半数の子供が失明を回避できるであろう.
インド南部 小児の視力障害(childhood blindness in India: a population based perspective)
インド南部の小児集団(6,935人、15歳以下)における視力障害(<6/600 in the better eye)は0.17%であった.この中で、処置可能な屈折異常は33.3%、予防可能な原因(ビタミンA欠乏、先天白内障の術後弱視)によるものは16.6%を占めた.その他の主要な原因には、先天奇形(16.7%)と網膜変性(16.7%)があった.
エチオピア 小児の視力障害(causes of severe visual impairment and blindness in children in schoold for the blindness in Ethiopia)
盲学校での高度視力障害原因疾患のランキングは、角膜混濁、視神経疾患、先天白内障(無水晶体眼)、ぶどう膜疾患の順であった.小児期のビタミンA欠乏、ハシカが回避可能な2大疾患であり、保健医療サービスの充実が必要である.
ネパール 小児の視力障害(ocular morbidity in schoolchildren in Kathmandu)
カトンマンズーの小学生全員(1,100人)を調査.11% が眼疾患をもっていたが、その97%は処置可能であった.屈折異常が最も多くて8.1%(近視:4.3%、遠視:1.3%).次いで斜視(1.6%)、外傷(0.54%)、角膜軟化症(0.36%)、先天異常(0.36%)の順だった.
ケニア 新生児膿漏眼予防点眼(a double application approach to ophthalmia neonatorum prophylaxia)
新生児の淋菌性結膜炎予防のためのpovidoneの出生直後一回点眼よりも同日に2回点眼するほうが有効かどうかを無作為盲検比較試験で検討.1か月以内の再検で膿漏眼を示したものはなかった.スメアのクラミジアは1回点眼群4.2%,2回点眼群3.9%で陽性、黄色ブドウ球菌は一回点眼群5.4%、2回点眼群6.5%で陽性だった.すなわち、新生児膿漏眼を予防するために2回点眼するのは無意味である.
アルジェリア 小児トラコーマ結膜炎(follicular conjunctivitis caused by clamidia trachomatis in an infant Saharan population)
サハラ砂漠地方の難民キャンプで「トラコーマ」が流行する.小児における濾胞性結膜炎の発生と治療効果を検討.2001年10月、527人の小児(年齢3ー17歳)を調べたところ2.4% の子供に急性結膜炎(乳頭増殖病変)を検出、トラコーマが疑われた.11.7%の子供にトラコーマの瘢痕病変があった.抗生剤azithromycin の点眼がきわめて有効で、1回だけの点眼で消炎してPCRによるクラミジア検出反応も陰性化した.かくして、サハラ地域における小児の結膜トラコーマは予想よりも低いことが判明した.衛生環境の向上によるのだろう.
ベトナム 未熟児網膜症の頻度と重症度(incidence and severity of retinopathy of prematurity in Vietnam, a developing middle-income country)
WHOは未熟児網膜症(ROP)リスク事例の早期スクリーニングを推賞しているが経済力の弱い発展途上国の実態はあまり明らかではない.ホーチミン市で2001年の1年間、出生体重1,500g未満または在胎33週未満の225名を調査.ROPは全体で45.8%(threshold ROP=9.3%)に発症、体重1,250g未満では81.2%(threshold ROP=25%)だった.治療した24眼の中の18眼(75%)が良好な結果を示した.
マラウイ 重症マラリア小児の眼異常(visual outcomes in children in Malawi following retinopathy of severe malaria)
重いマラリアに罹患した小児96人を経過観察、頻度の高い徴候は"macular whitening"であった.しかし、こうした網膜病変は視力に影響しなかった.
チベット 視力障害blindness and eye diseases in Tibet: findings from a randomized, population based survey)
チベット自治区における失明予防10か年計画を推進するため、12,644人を無作為抽出した.Blindness(視力0.1以下)の割合は2.3% (年齢・性補正で1.4%, 95%CI 1.3 - 1.5)、visual impairment(視力6/24-6/60)の割合は10.9% だった.原因疾患は白内障(50.7%)、黄斑変性(12.7%)、角膜混濁(9.7%)の順だった.
パキスタン 白内障術後の視力
慈善病院での181件の白内障手術統計.術式の内訳:嚢外摘出=50%、Phaco =11%、嚢外摘出+IOL=17%、Phaco + IOL = 22%.術後にきちんと視力の矯正を行わなかった事例が実に76%に達したのは問題である.術後視力はIOL挿入眼でいっそう良好だった.発展途上国でもIOL挿入は大いに実施すべきだ.
ネパール 白内障手術(willingness to pay for cataract surgery in Kathmandu valley)
カトマンズー近郊の医療キャンプで白内障手術適応を見い出した78人(平均年齢68.8歳、男/女=0.9/1.0)について、有料でも手術を受けるかどうかを調査したところ33人 (42.3%) がイエスと回答した(希望料金は49%が13米ドル以下、平均は23ドル).両眼罹患者のほうがより多く希望した.手術を希望しない理由で最も多いのは料金の支払いができないことだった.家族の助けがないこと、手術効果に対する理解不足、無料サービスが行われるまで待つ、といった回答もあった.
バングラデッシュ 白内障手術(outcomes of cataract surgery in Bangladesh: results from a population based nationwide survery)
National Blindness and Low Vision Survey によって11,624件の白内障手術を調査した.ICCE/ECCE+IOLの割合は、過去3年で3.8:1.0であり4年以上以前の25:1と比較すると、ECCE+IOLが顕著に増加した.入院手術によるECCE+IOLの視力改善効果が大きかったのだが、その36%は0.5以下の術後視力であった.
ウガンダ 農村部での視力障害(Incidence of visual loss in rural southwest Uganda)
視力障害の主要な原因疾患は白内障と屈折異常とであった.
エチオピア 成人の視力障害(low vision and blindness in adults in Gurage Zone, central Ethiopia)
40歳以上の成人2,693人における視力障害(<3/60 better eye)は7.9%、低視力(6/24 - 3/60)は12.1%であった.それぞれ加齢とともに増加した.女性は男性の1.8倍多かった.原因疾患は、白内障=46.1%、トラコーマ=22.9%、緑内障=7.6%.
インド南部 角膜障害(corneal blindness in a southern population: need for health promotion strategies)
Pradesh州住民10,293名を無作為抽出、角膜混濁による高度視力障害(矯正視力0.1未満)の有病率(年齢・性・地域補正)は0.66%(両眼が0.10%、片眼が0.56%)、52%の事例は光覚もおぼつかない高度障害だった.原因疾患は小児期の角膜炎=36.7%、外傷=28.6%、成人期の角膜炎=17.7%であり、適切に処置すればほぼ95% は視力障害を避けることができるものだった.家計が苦しいほど、また高齢になるほど角膜病変による視力障害の有病率が増加した.
中国北部 細菌性角膜炎(distribution and shifting trends of bacterial keratitis in north China 1989-1998)
1998年までの10年間に得た角膜擦過試料2220の細菌培養試験の結果、490件(22.1%)が陽性だった.グラム陽性球菌が51%、グラム陰性杆菌が39.4%だった.最も頻度が高かったのは緑膿菌で32.5%を占めた.
バングラデッシュ 成人の視力障害(prevalence and causes of blindness and visual impairment in Bangladeshi adults: results of the National Blindness and Low Vision Survey of Bangladesh)
30歳以上の成人11,624人を国の各地から無作為に抽出.高度視力障害を<3/60、低視力を<6/12->3/60と規定すると、両眼の高度障害は1.53%、低視力は13.8% だった.原因疾患は白内障が74.2%、屈折異常が18.7% だった.すなわち、手術治療が可能な白内障のバックログを減らし、屈折異常の矯正を円滑にするための国歌的戦略が必要である.
オマーン 糖尿病網膜症(diabetic retinopathy in Oman: a hospital based study)
登録糖尿病患者5564人から2249人を無作為に選択、糖尿病網膜症の有病率は14.39%(95%CI,13.49-15.31)、男性は女性よりも多く、50代と60代が多かった.背景網膜症=8.65%、増殖網膜症=2.7%、黄斑症=5.1%だった.有病率は糖尿病の罹病期間が長く、HbA1C>9% で大きかった.また、網膜症に対するレーザー光凝固の適応がある患者の中で、実際に治療を受けていたのはわずか20% だった.
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