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第9号 5/07 2003
近着最新情報

SARS (NEJM April 7, 2003)
 世界的に流行しているSevere acute respiratory syndrome (SARS)の緊急報告.
 香港Prince of Wales Hospitalでの138例(男66例、女72例;69例は医療従事者)を報告している. 主症状は発熱(100%)・悪寒(73%)・筋肉痛(60%)、半数以上で咳と頭痛があり、 血液リンパ球減少(70%)・血小板減少(45%)・乳酸脱水素酵素上昇(71%)・クレアチンキナーゼ上昇(32%) がみられる.ICUに収容した32例(23.2%)の中で5例が死亡した. 予後関連因子として、年齢・末梢血乳酸脱水素酵素の高値・入院時の好中球の高値があった.
非定型肺炎双球菌による結膜炎の流行(NEJM March 2003)
 2002年2月米国東部New Hampshire州の名門Dartmouth Collegeでの肺炎双球菌による流行性結膜炎の緊急報告.学生5060人中698人(13.8%)が、2002年1月から3か月間に急性結膜炎に罹患した.結膜擦過物の43.3%に双球菌を検出(ウイルス培養は陰性)、細菌のDNAから肺炎双球菌と同定された.感染の要因として感染した学生同志の接触・コンタクトレンズ装用・部活やparty参加・学生寮の同室などがあった.感染予防に留意させると患者発生は減少した.今回の大学キャンパスにみられた、非定型のStaphylococcus pneumoniaeによる結膜炎の流行は、1980年に米国の他地域で流行した結膜炎の原因と同じ菌種であることが判明した.
 この流行に続いて、2002年10月から12月にかけてMaine州Westbrookの小学校で同じ起炎菌による急性結膜炎が流行した.
緑内障患者の病識について(BJO 2003 April)
 急性閉塞隅角緑内障を患った中国系シンガポール人には、緑内障のことに無知で受診が遅れるものがよくみられる.初回発作で来院した105例(35歳以上)について背景因子を調べてみた.緑内障のことを知っていたのは全体の23%だった.無職で学歴が低い60歳以上の人々で無知のことが多く、3割以上は発作後1日以上たってから来院した.マイカーを持たない、付き添いがいない、といった事例は受診の遅れが目立った.中国語しか話せないといったことも受診が遅れる理由であった.
原発閉塞隅角眼の緑内障発作リスク:5年後の実際(BJO 2003 April)
 高リスク患者50例について5年後の経過を調査した. 11例(22%)が両眼に緑内障発作を来たした(虹彩後癒着7、隅角癒着4)、2例が結局は正常と診断した. 緑内障発作は眼軸長が短い事例で起こすことが多かった.対照群110例では1例だけが発作を経験した.
強度近視黄斑円孔網膜剥離とILM除去(AJO April 2003)
 後部ぶどう腫をきたした強度近視眼での網膜剥離がやっかいなのは、内境界膜が強固だからであろう. こうした眼の復位手術では、黄斑円孔の有無にかかわらず、内境界膜を除去するのが効果的である.
急性閉塞隅角緑内障の発作処置での水晶体摘出(AJO April 2003)
 18例の緑内障発作の処置に際してPEA+IOL 移植を実施、眼圧は術前に比し翌日は平均9mm Hg下降 (22.8→13.8 mm Hg)、一週後は9.6 mm Hg 下降(13.2 mm Hg)した.こうした処置をさらに検討する余地がある.
高眼圧へのbetaxololの効果(Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol March 2003)
 高眼圧症眼にbetaxololを点眼することによって初期緑内障へ移行するのを遅らせたり阻止することができるかどうかを知るためのprospective, randomised, placebo-controlled trial.高眼圧症365例を使用、betaxololまたはplaceboをランダムに割り付けて点眼、1992年から1996年の期間に、眼圧・視野・視神経乳頭画像を4か月間隔で経時的に観察した.Advanced Glaucoma Intervention Study (AGIS)基準による視野変化を示した場合を初期緑内障への移行と判定した.開始から3年後の視野についてはintent-to-treat analysis(治療分析)によってbetaxolol群とplacebo群とを比較した.結 果:255例で分析可能なデータが得られた(経過観察期間は2ー6年).初期緑内障へ移行したのはbutaxolol群で12/134(9.0%)、placebo群で16/121(13.2%)であった.3年後の移行率は、intent-to-treat analysisによれば、両群に有意差は確認できなかった.視野のsurvival analysisの結果にも両群の間に有意差はなかった.最終眼圧レベルはbetaxolol群で有意に低かった.初期緑内障への移行事例は、その事前眼圧と最終眼圧が非移行例よりも有意に高かった.結 論:beaxololは眼圧レベルの下降に有効である.初期緑内障へ移行するかどうかには、事前の眼圧レベルがおおいに関係する.しかしながら、初期緑内障へ移行した事例を検討してみると、betaxololにそれを遅らせたり予防したりする薬効があるという作業仮説を立証できなかった.
弱視眼:遮閉療法コンプライアンス(Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol March 2003)
 不同視弱視、斜視弱視に対する遮閉療法の視力回復効果は、小児患者のコンプライアンスが低いと不良であることを、コンプライアンスを客観的に評価することによって確認した.



診察メモ
OCT検査でわかること 2.特発性黄斑円孔

 網膜光干渉断層撮影optical coherence tomography(OCT)が診療現場で活用されるようになってから数年になる.網膜を高い解像度(20 μm)で断層撮影する、干渉信号強度をカラー表示する、非侵襲であるといった特徴を備えた検査機器である.さまざまな眼底疾患の形態診断や病態評価のために有効であるばかりか、OCTによってはじめてわかることも少なくない.そのいくつかを整理する.  特発性黄斑円孔は病歴を手がかりとして検眼鏡と細隙灯顕微鏡による観察によって把握されるが、その形態の細部をとらえるためにOCTほど有益な情報を提供してくれるものはないであろう.特に、発症の経過をみたり、初期診断には今や欠かすことができない検査になった.
 黄斑円孔の病期分類としてGass' classficationが汎用されている.これは細隙灯顕微鏡による所見を参考にして分類されるのであるが、円孔の形成に重要な役割をはたす硝子体網膜界面(vitreoretinal interface)の変化と関連させて理解するにはOCT所見が大切である.
 図示したのは、黄斑部から視神経乳頭面(OD)を横切る、いわば水平断層画像である.通常は3mmあるいは5mmの長さで切るが、図示したのは位置をすこしずつずらして撮影した3枚の画像を重ねあわせて、後極部を広く把握しようとしたものである.同じことを垂直に断層して組み合わせれば、立体画像として理解することが可能である.

上段図:正常眼(高齢者).部分的後部硝子体剥離.後部硝子体剥離の前駆段階の硝子体網膜界面を示している.無症状である.後部硝子体は傍中心窩・視神経乳頭・黄斑部より耳側周辺部で接着している.黄斑部をよく見ると、中心小窩から外側で剥離、中心小窩の内側では接着が維持されているのがわかる.
2段目図:特発性黄斑円孔1期.黄斑部で網膜内に偽嚢胞(pseudocyst)がある.後部硝子体は正常眼(A)でみられるのと同じperifoveal posterior vitreous detachment(PPVD)をしめす.この病期はfull-thickness holeになる前のimpending hole あるいはearly macular holeである.症状としては歪視が見られる.
3段目図:特発性黄斑円孔2期.偽嚢胞の屋根の一部がさけて、そこにPPVDがなお接着していかにも黄斑部を硝子体側に"引っぱり挙げている"姿をみてとることができる.ほぼfull-thicknessの円孔が形成されている.症状としてはさまざまな程度の視力低下をみる.
4段目図:特発性黄斑円孔3期.PPVDによる引っ張りによって円孔が完成、黄斑部での接着は解放されて、やや離れた硝子体中に蓋(operculum)になって浮んでいるのが見える.後部硝子体剥離はいぜんとして部分的で、視神経乳頭と黄斑部の耳側(垂直断層でみるとアーケード血管領域)で接着している.
 4期は、後部硝子体剥離の完成と一致する(剥離した後部硝子体の皮質をOCTで記録することはできない)

 
 


日眼総会から = 電子カルテ、研修義務化、「講演と口演」

 先週末の福岡日眼総会の役員会で恒例の議事に加えて表記のキーワードが議論された.
 電子カルテのことを耳にして10年、大学病院をモデルに実践段階を迎えた.変幻自在の診療録の本体を電子化するには難題山積、現場はとまどい経営向上どころではない、診療や教育の効率は低下すると懸念する声が多く聞かれた.各種各様の専門科が林立する大学病院で標準化したカルテに『ユニークな眼科のカルテ』を組み込むのは難しいのであろう.ところで、電子カルテを単科として用いるアイケア名古屋では.紹介状や診断書などを除けばpaperlessになり、保険請求事務も省力化され、この限りでは所期の目標はほぼ達成されている.だが、スペックは力不足である.具体的に挙げると切りがないが、ユーザー(眼科医)がカスタマイズできる余地がきわめて乏しいのである.ツールの開発競争が盛んになって有用な仕様の器械ができてくるのを期待するばかりだ.ただし、いかに素晴らしい機器やソフトが開発されても、発生源入力という行動が円滑でなければ宝のもちぐされになる.
 平成16年から卒後の初期研修(2年)が義務化されるが、基幹科目から外れる「眼科」では計画どおりだと平成16年と17年の2年間は新規入局者なしということになる.教室の運営や地域医療の支援に支障をきたすにちがいない.一方、国民(納税者)の視点からみれば、即入局とちがって全人医療や全身プライマリー医療の教育研修をきちんと修了してから専門分野にどっぷりつかって専門医を目指すのはウエルカムであろう.
 『日眼総会を面白くして、大勢の会員が参加できるようにしよう』ということで運営改革が実行されようとしている.世界の新情報を簡単に手にすることができる昨今であるが、face-to-faceの集会はますます大きくなるであろう.
 日眼の学術講演会には『一般講演』と『一般口演』とがある.『特別講演』はあるが『特別口演』はない.福澤諭吉が speech を『演説』と訳したことは有名で、古くは『総集会演説大要』、『外国人招待講演』などがあった.最近では『oral presentation』や『ポスター展示』もある.『口演』のほうは最近になって使われるようになった.ちなみに、手許の辞書をみると、
 『講演』広辞苑=(1)経を講じ仏法を説くこと.今昔「弟子を集めて口演を行ひて番論議をせしめ」 (2)公衆に講議をすること.話をして解きあかすこと.また、その話.「講演会」 大辞林=(1)聴衆の面前で、ある題目のもとに話をすること.また、その話.「外交問題について講演する」「講演会」(2)経典を講じ、仏法を説くこと.  『口演』広辞苑=(1)文書でなく、口で述べること.口述.(2)口で述べる演芸をすること.「浪曲の口演」大辞林=(1)口で言うこと.口述.(2)(浪曲・講談などを)口で演ずること.また、その芸.

 


<編集後記>

 小生が居住する尾張旭市は農村の雰囲気を濃く残す閑静な土地で、わが家の庭にも4月に入って桜をはじめ10種類ほどの木々の花が、一斉に咲き誇りました.万博会場の建設の影響を間接的ながら受けています.家の近くに「図書館通り」という便利な幹線道路がありますが、1年前と比べると交通量がめっきり増えました.

 
大庭 紀雄

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