セミナー:開放隅角緑内障
Seminar Primary open-angle glaucoma Lancet 2004; 363: 1711 - 11720 May 22, 2004 www.thelancet.com
臨床医学のインパクトに富む最新情報を提供する週刊医学総合誌『ランセット』の5月22日号は、原発開放隅角緑内障(POAG)を取り上げている.RN Weireb(UC San Diego)と PT Khaw(Morrfields眼科病院)が最新124論文をもとに一般医療人向けに書いた総説である.要点を紹介する(大庭 紀雄).
(疫 学)
世界中で6600万人以上が緑内障に罹患、700万人が視力障害を患うと推定され、失明原因の2位になっている.緑内障には各種タイプがあるが、POAGはもっともありふれた病型である.
(解剖と生理と病理)
眼圧は房水の分泌と排出とがバランスして調整されている.網膜内層神経節細胞の神経線維(RNFL)は視神経乳頭に集まり、約100万本の神経線維が集まって視神経になる.緑内障は視神経乳頭にきわだった病的変状をみる神経変性疾患に他ならない.神経節細胞がごく緩慢かつ非可逆的に変性するのに加えてグリア細胞も変性する.病因はすっきりとは解っていないが、神経節細胞が眼圧のレベルに依存して損なわれることは疑う余地がない.線維柱帯の排出抵抗が高まるとともに視神経乳頭篩状板の圧勾配が増加して、神経節細胞は変形・機械的負荷・栄養障害を蒙って細胞死に陥り、視神経乳頭の陥凹拡大や篩状板の圧縮・伸長・再構成をきたす.高眼圧とともに、あるいは独立に、網膜の虚血や乏血・glutamatergic system (NMDA系) 過剰刺激・glutamate transporter 機能不全・酸化ストレス・フリーラジカル・サイトカイン(TNF、NO)・免疫不全など各種要因が絡む.また、神経節細胞損傷に続発して周囲の神経節細胞が死滅していく.
(診 断)
緑内障は早期に診断して管理していけば変性を抑えたり遅らせたりすることができる.
視神経乳頭:視野検査に異常が見つかる時点では既に半数を超える視神経節細胞が細胞死をきたしている.すなわち、細胞レベルでみればかなり進行するまで無自覚無症状である.細隙灯顕微鏡を用いて視神経乳頭を立体的に観察して、乳頭縁の広汎もしくは限局性狭細化やnotching、ことに上下乳頭縁の変化を把握することが大切である.
RNFL:乳頭の上部と下部の線維束は厚いから明るく反射するが、緑内障では反射が全体に弱くなったり束状に欠ける.
視神経乳頭とRNFLを客観的かつ量的に評価する方法が開発されてきた.scanning laser polarimetry, confocal scanning laser ophthalmoscopy, optical coherence tomography といった新技術である.こうした検査は、緑内障の鑑別診断や病状評価に有用なデータを提供する.
(視野の評価)
視力低下ではなくて視野異常が先行する.しばしば検出される視野異常は、鼻側階段・下方もしくは上方の弓状暗点・傍中心暗点・びまん性沈下である.慣用の検査法でも視野を量的に把握することはできるのだが、早期の視神経節細胞の損失を評価するには不十分である.短波長視野(黄色の背景に青色の刺激光を呈示)を測定すれば、外側膝状体の koniocellular layer に連なる神経節細胞の機能を選択的に調べて通常の視野検査よりも5年も前に緑内障を検出することができる.また、外側膝状体のmagnocellular layerに連絡する神経節細胞を調べる目的で開発されたfrequency doubling perimetryもPOAGの早期発見に有用である.
(リスクファクター)
眼圧のレベルと加齢が主因である.アフリカ系アメリカ人患者は白人患者と比べると、視神経損傷が若年で起こり、手術成績が不良だ.高度近視や家族歴もリスクを高める.具体的に、患者の一親等の家族のリスクは一般人の8倍である.最近の知見だが、角膜が薄い(中央部で556μm以下)、水平C/D比または垂直C/D比が0.4よりも大きい、といったこともリスク要因になる.高血圧・心疾患・片頭痛・末梢血管狭窄なども絡む.
(遺 伝)
遺伝的には多因子性疾患であり、各種原因による臨床的には識別できない複数疾患の集まりとみてよいだろう.単一遺伝子病としてはmyocilin 遺伝子変異によるPOAGの原因遺伝子が確認されており、43種類の遺伝子変異が証明され、緑内障全体の3-4%の成因になっている.ただし、myocilin遺伝子変異の一般集団頻度は低いからスクリーニングのために遺伝子診断を用いるのは実際的ではない.だが、家族歴がある患者の場合には検査するのもよいだろう.
(スクリーニング)
POAGの半数は22mmHgよりも低い.22 mmHg以上であっても視神経が損傷しないことも稀ではない.視神経乳頭や網膜神経線維層の評価がスクリーニング検査として大切であって、眼圧測定はあまり意味がないことに留意する.
(治療目標)
QOL向上を目指して視機能を維持するのが目標である.(1)初診から経過中の視神経乳頭・RNFL・視野の状況を記録にとどめておく,(2)目標眼圧(target IOP)を定めて管理する,(3)目標眼圧は臨機応変に修正する,(4)治療の副作用を最小限にとどめる,(5)病状をよく説明して教育する.今のところ,進行阻止の有効性が実証されているのは眼圧管理だけである.治療目標は目標眼圧を維持することだが,個々の患者で目標眼圧を予知するのは困難なことが多い.一般的にいえば,視神経損傷が起こっている時の眼圧(初診時眼圧)の20% - 50% を初期目標とする.視神経損傷が大きいほど目標眼圧を低くする.
(臨床試験成績clinical trial results)
多施設共同のランダム化比較試験がいくつか行われて,緑内障や高眼圧症に対する眼圧下降の有効性が実証された.留意すべきは、放置しておいても高眼圧症の半数は緑内障に移行しないですむし,緑内障ではあっても進行しないことである.つまり,眼圧が高いままで緑内障に発展しない事例も少なくないから,眼圧が高いだけの事例の治療方針は、個々の患者での進行のリスク要因を助言しつつ患者自身の選択を優先して決める.
(薬物療法)
prostaglandin analogues, prostamides (latanoprost, travoprost, unoprostone, bimatoprost) は主としてuveoscleral routeの房水排出を促して眼圧を下げる.一日一回の点眼で有効だから今や第1選択薬だが,米国や欧州で認可されているのはlatanoprostだけだ.latanoprostは虹彩や睫毛のメラニンを増やすことがある.眼圧下降薬にはその他にもいくつかある.α2交感神経拮抗薬(brimonidine, apraclonidine)は点眼直後は房水の産生を抑え,やがて排出を強めて眼圧を下げるが,下降効果はprostaglandin analoquesよりも弱い.房水産生を減じる炭酸脱水酵素阻害薬の点眼薬(dorzolamide, brinzolamide)は内服と比べると全身副作用がずっと小さい.現在も汎用されるベータ交感神経遮断薬も房水分泌を減少させるが,心血管系や呼吸器に副作用がある.房水排出を促進する副交感神経刺激薬(pilocarpine)にはいくつかの副作用が出るので使いにくい.慢性疾患だから薬物のコンプライアンスが大切であるが、医師が思っているほどはきちんと服用しないことが多いし、長期にわたる加療をドロップアウトする患者も少なくない.
(神経保護薬 neuroprotective agents)
筋萎縮性側索硬化症やパーキンソン病や脳硬塞との類推から神経保護薬が検討されているが、有効性が立証された薬剤はない.
(レーザー療法)
POAGに最もよく行われているのはLaser trabeculoplastyである.数カ月は有効だが、だんだん効果を失うことが多い.5年後には約半数が、その後は1年に10%の割で効力を失う.進行例には laser diode cyclophotocoagulationが有効である.
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