| インドシアニングリーン 光 と 影
硝子体手術が黄斑円孔や糖尿病黄斑浮腫にも拡充される経過ではさまざまな器具や手技やガスや薬剤が工夫されてきたが、このところ話題を集めるのは黄斑部の内境界膜(ILM)を 剥ぎとるILM peelingである.コア硝子体切除に加えてILMを取り除くと、難治性の黄斑浮腫が軽減したり黄斑円孔の閉鎖が促進することが報じられてきた.ただし、ILMはごく薄くて無色透明だから、隣接する神経線維層や神経節細胞層を傷めることなく選択的に切除することは難しいにちがいない.そこで、案出されたのがインドシアニングリーン(indocyanine green, ICG)を注入してILMを選択的に染めて同定する手技である.このICG-assisted ILM peelingは、Kadonosono H(横浜市立大)が2000年のAJOに発表した論文が嚆矢だった.世界の術者が導入し、2001年から2002年にかけて有用性を確認したとする論文が次々に公表された.安藤文隆も国立名古屋病院時代ILM peeling(ICGを使わない)を実践していたので、この方法を採用してその後多数の症例に応用した.症例の蓄積とともに有用性の一端を確認したのだが、anatomical outcomeはしごく良いのに視機能の改善はパッとしない、パッとしないどころか非可逆的の視野異常や視神経萎縮などを示す症例が少なくない、という気がかりな経験を重ねた.新しい手技であるからlearningバイアスが絡んでいることも考えられたのであるが、蓄積された症例を集計してそれ以前に行ったICGを使わない事例と比較すると術後の経過にかなりの違いがあるのを確認したのだった.つまり、 ICGはILM の除去という手術操作のためには有益なのだが、「悪さをすることもあるにちがいない」と結論せざるを得なかったのだった.
1.Ando F, Sasano K, Ohba N, Hirose H, Yasui O. Anatomic and visual outcomes after indocyanine green-assisted peeling of the retinal internal limiting membrane in idiopathic macular hole surgery. Am J Ophthalmol 2004; 137: 609-614.1998年から2001年までの4年間に行われた特発性黄斑円孔96例(97眼)をレトロスペクティブに次の3群にわけて比較した.I 群:ILMを除去なし(48例47眼)、II 群:ICG を用いないでILMを除去(21例21眼)、III群:ICGを用いてILM を除去(28例28眼).年齢・性・円孔持続時間・術前視力・経過観察期間(平均15か月以上)は群間差なし.初回手術による円孔閉鎖率:群間差はないが、I 群85.4%、II 群85.7%、III群100%とICG使用群で良好だった. 2.Ando F, Yasui O, Hirose H, Ohba N. Optic nerve atrophy after vitrectomy with indocyanine green-assisted internal limiting membrane peeling in diffuse diabetic macular edema. Graefe’s Archive Clin Exp Ophthalmology 2004; in press.光凝固療法に抵抗する難治の糖尿病黄斑浮腫の浮腫軽減を目的として、ICG-assisted ILM peeling を11 例15眼に実施、平均20.5か月経過観察.最終時点でのOCT所見を参考にすると、黄斑浮腫は11眼 (73.3%) が消失、3 眼(20.0%) が減少、1 眼(6.6%)が不変であった.視力は4眼が改善、6眼が不変、5眼が悪化した.LogMAR視力をみると術前と術後の間に差はなかった.注目すべきは7眼(46.7%)が術後6か月以内に視神経萎縮と周辺視野沈下(主として鼻側)とを示したことである. 3.Ando F, Sasano K, Suzuki F, Ohba N. Indocyanine green-assisted ILM peeling in macular hole revisited. Am J Ophthalmol 2004; in press.『黄斑円孔に対するICG-assisted ILM 切除の再検討』 ICGの網膜への有害効果が考えられたので、ICGを援用したILM切除はしばらく休止したが非染色による切除はかなり困難なことが多かった.そこで、再検討を目的として、ICGの濃度と適用時間を取り上げた.それまではいずれも0.5% を用いたのだが、今回は0.05%とした.また、網膜上への作用を長くても10 秒とした.一種の研究だから、事前に説明を十分に行って同意をとったことはもちろんである.こうした適用条件をこれまでに16例に実施してきた.ICGの濃度を10倍だけ薄めた結果、約1/3 の症例ではほんの僅かだがILMに染まって同定することができるのだが、残りの2/3 の症例ではほとんど染まらない.染まらない場合には、再注入すると先に作ったILM上の裂隙を介してその周囲が染まり同定することができた.平均12.3か月の経過観察で、術後の視力は改善しただけでなく、視神経乳頭の蒼白化や周辺視野異常をきたした事例は皆無である.この結果から、ICGの網膜への有害効果を軽減させる方策として、濃度をできるだけ低くすること、網膜への接触時間をできるだけ短くすることが考えられる.これまでは後ろ向きのcase seriesの検討によるものであった.今後はランダム化比較試験による検討が期待される. |
Miller Fisher 症候群の原著 2003年発表の総説によれば、男女比は2:1、平均発症年齢は43.6、ウイルス感染症状が7割で先行、先行するかぜ症状と神経症状の間隔は平均10日.発症時所見は眼球運動障害に加えて、腱反射が8割で消失、眼球運動関連以外の脳神経障害は56% (7番最頻、次いで9番、10番脳神経)、髄液蛋白上昇を65%の症例にみる.意識混濁、核上性眼筋麻痺、脳波異常、CT異常をみることがある、経過と転帰は一般に良好で、発症から数えて平均10週後には回復するのがふつうである.
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| 監修:愛知淑徳大学教授 大庭 紀雄 |
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