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第11号 8/15 2003
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加齢黄斑変性脈絡膜血管新生の予防にレーザー光凝固は有効か(Eye 2003; 17: 623-627)
 英国の the drusen laser study による RCT (randomized controlled trial) .有効ではなく、しかも血管新生を誘発するリスクがあると緊急報告している.
 「光凝固によって軟性ドルーゼンは消退するか」、「光凝固によって脈絡膜新生血管を抑止することができるか」.1年以内に片眼に脈絡膜新生血管を患い、他眼に高リスクの病変(軟性ドルーゼン)をもつ症例群(視力は 0.5 以上)を使用、 informed consent をとってから、治療群と非治療群とにランダムに割り付け.治療群:中心小窩を取り巻くように 750μm離れた部分に4個、1500μm離れた部分に8個、合計12個のアルゴン光凝固を施行した.両群とも同じ期間定期的に追跡観察.視力は masked observer が測定.FA はテスト開始前と年1回定期的に施行した.
今回の検討では 153 例が対象になった.脈絡膜新生血管の発症は、治療群で 21/81(26%)、非治療群で 13/75(17%) であった(P = 0.19).治療群での発症は非治療群よりも早かった.1年後の視力が低下したのは治療群で9/54 (17%)、非常群で 2/48 (17%) と変わりがなかった.こうした中間結果から、Trial は中止した.
(コメント:レーザー光凝固に予防効果があるのではないか、といった期待をうちのめすRCT研究の成果である.研究計画を即刻中止し、予期される有害効果をすみやかに医学界や社会に知らせる努力を惜しまない著者たちの態度も、評価すべきであろう.)
硝子体注入 ICG の長期眼内貯留(AJO 2003; 136:172-174;174-177)
 黄斑円孔手術治療の一貫としてICG を硝子体腔内に注入して内境界膜を染めて見やすくする、こうした試みがかなり広く行われている.だが、ICG の網膜への有害効果を心配する声もある.注入されたICGは少なくとも3か月以上、症例によっては9か月もの長い期間にわたって網膜の中に留まる、という臨床経験の報告である.
POAG の SLT (AO 2003; 121: 657-960)
 開放隅角緑内障の眼圧下降をねらって argon laser trabeculotomy (ALT)が普及しているが、いくつかの問題をかかえている.その後に開発された SLT ( selective argon trabeculotomy)の効果と安全性については、はじめての prospective pilot study である.frequency-doubled Q-switched Nd:YAG laser (532nm, 3 ns, 400μm) を線維柱帯の半周に 50 spots 照射.45眼の1年後の経過で40眼(89%)に眼圧下降効果(5 mm Hg 以上下降)あり.慣用の ALT と異なって、SLT では線維柱帯の瘢痕形成や虹彩前癒着などの後遺症を生じることがなく安全性が高い.
眼圧の測定値と角膜乱視(Eye 2003; 17: 617-618)
 成人 30 眼のゴールドマン圧平眼圧検査による眼圧の測定値と角膜乱視の測定値とを比較した.両者は相関をもち、角膜が平坦であるほど眼圧値は低く測定される.
緑内障・高眼圧症と血圧(Eye 2003; 17: 593-598)
 高眼圧緑内障(n=22) ・正常眼圧緑内障(n=18)・高眼圧症(n=19)で、血圧を昼間は 20 分ごとに、夜間は 30 分ごとにモニターした.日中の収縮期血圧・拡張期血圧・平均血圧については群間に有意差はなかった.夜間の血圧下降(Nocturnal dip)の割合にも群間で有意差はなかった.夜間の収縮期血圧が 90 mm Hg 以下に下がる事例は、正常眼圧緑内障で有意に多い.こうした夜間の血圧低下は正常眼圧緑内障の視神経障害にかかわりがあるかもしれない.
急性視神経炎と多発性硬化症(AO 2003; 101: 944-949)
 特発性急性視神経炎の長期経過中に多発性硬化症が発症することがある.1988年から1991年の間に初診した急性視神経炎 388 例について、10 年間-13 年間のprospective study.発症後10年の多発性硬化症発症リスクは 38%(95CI: 33-43%).初診時に MRI で「プラッック病巣」が検出された事例(190例)のリスクは56%、検出されない事例では22%(P<0.001).MRI で「病巣」が検出されない事例では、男性・視神経腫脹・光覚なし・眼痛なし・視神経乳頭部の浮腫・出血などがリスクを高める要因であった.(コメント:原因不明の急性視神経炎ではMRI検査をルーチン化するのがよいだろう.)
trypan blue capsulorrhexis: 前嚢の組織学的所見(Eye 2003;17:567-570)
 Trypan blue は水晶体前嚢の基底膜を選択的に染色する.
小児の涙液脂質層(Ophthalmology 2003; 110: 1408-1411)
 生後6か月までの乳児期では、涙液フィルムの脂質層の厚さは成人よりもはるかに厚い.新生児の noninvasive tear break up time は成人よりも延長している.新生児では、脂質層が厚いことで水の蒸発を防いで涙液フィルムを安定にしているであろう.
小児の眼筋無力症(Ophthalmology 2003; 110: 1458-1462)
24 例の小児例の臨床所見のまとめ.平均発症月齢 38 か月.眼瞼下垂:96%; 斜視:88%; 弱視:21%.prednisone, pyridostigmine 併用維持療法が有効である.



眼科の古典 Wilbrand の膝(Knee of Wilbrand)
Hermann Wilbrand
Zeitschrift fur Augenheilkunde 1926; 59: 135-144
Schema des Verlaufs der Sehnervenfasern durch das Chiasma


                    (図1)Wilbrand と Wilbrand's knee 原図

Hermann Wilbrand(1851-1935)は視野研究のFoersterのもとで眼科を学び、1879年からHamburg 大学の教授を勤めた.神経眼科に興味をもち『神経眼科学教本Neurologie des Auges』を著した神経眼科学の父ともいうべき人で、視覚路の構造と機能を論じた.Golgiの「視覚中枢は皮質下に存在する」という考え方を論破し、視覚の局在は後頭葉皮質にあること、同名半盲は視放線や後頭葉皮質の病変でも起こること、網膜の異名半側は後頭葉皮質に対応して投射されることなどを明らかにした.1929年発表の論文(図1)は、視交叉部における交叉性線維と非交叉性線維との走行、網膜の視神経線維の起始と視神経乳頭部から視交叉部での局在関係(retinotopic projection)をくわしく描記している.片眼の重度視神経疾患を患ったために視神経線維が萎縮脱落した標本を観察したものである.こうした状況のもとで、視神経の乳頭部から視交叉部にかけて視神経線維の走行を一義的に調べることができたのだった.

 視交叉部の構造や視野について成書をひもとくと必ずでてくるのが、その前部に位置するWilbrand's kneeという妙な名前である.この特異な構造は、片眼の中心暗点と他眼の連合暗点(junctional scotoma)の発生機序につらなる.つまり、視神経線維は視交叉部に達すると、網膜の鼻側に発した線維は視交叉部で交叉して反対側の視索に、耳側に発した線維は交叉しないで同側の視索に向かうのだが、鼻側下方からの交叉線維は交叉部の入り口で一旦反対側の視神経を回り込んでから交叉部を通過していくというもので、膝(knee)を思わせる走行をとる(図2).

(図2) Wilbrand's knee と 視野異常

 60年代はじめ神経眼科のWilliam Hoytは、実験的に網膜の一定箇所を光凝固して視神経線維損傷を作成、Wilbrand's kneeを追認した.ところが、1997年になってHortonは、サルを用いた実験によって、Wilbrand's kneeは正常状態では存在しない、そうした走行が観察されるのは死後変化あるいは片眼視神経線維損傷による一種の人工産物であろうと論じている.臨床的には、さまざまな視交叉部隣接領域の疾患を基盤とする前部視交叉症候群(anterior chiasmal syndrome)で、Wilbrand's kneeによってうまく説明できるユニークな視野異常を見る(図2).『膝』が存在しないとすれば、そうした視野異常の成因をどう理解したらよいのだろうか.

 


FAG か FA かICGかICGAか

 眼底の fluorescein angiography が実地に応用されるようになって 30 年、最近はFAG という略語を耳にし目にすることが多い.日眼用語集(1999)でも『fluorescein angiography (フルオレセイン)蛍光造影(法)→ FAG』とされている.だが、頭字語(acronym)の作成ルールによれば FA が妥当ではなかろうか、外国の論文ではFAG は見たことがないのとあわせて気にはなっていた.重箱の隅問題かもしれないが、きちんと調べてみようと論文データベース Medline をあたってみた.Abstractに検索用語[fluorescein angiography+retina]が現われるのは6292論文、その大部分で略語は見当たらなくて、108論文 (1.7%) で頭字語が使用されていた.その内訳はFAが90件(90.1%)、FAGが8件 (9.9%) である.つまり、国際誌では FAG と省略されることがなくはないが例外である.しかも、FAG を使った18件の中で実に16件が日本からの論文であった.大袈裟にいえば、日本人は診療や学会や論文では FAG を使い、海外情報は FA で受け取る、というダブルスタンダードをこなす点でユニークである.仲間の皆が使うから、なにかと取り違えてニアミスを招くこともないから、といった事情でいつとはなしに慣用化されたのであろう.ちなみに、一般用語fag は聞こえのよくない意味をもつ言葉である.海外に発信する時は FAG は避けて FA を使うのが無難であろう.JJOの編集ではFAGはFAに訂正している.
  ついでに、後発のindocyanine green angiographyはどうだろうか.抄録に1回以上使っている眼科論文478件を調べると、353論文(73.8%)は「タイトルや抄録には略語使用は避ける」というルールに準じている.略語を使用した125件の内訳は、ICG angiography = 81 件 (64.8%);ICGA = 26 件(20.8%); ICG-A = 3 件(2.4%); IA = 4 件(3.2%) 、ICGV (ICG videoangiography) = 11 件 (8.8%)である.fluorescein angiography と並べて用いる場合には [FA, ICG angiography]が一般的だが、[FA, IA]という対称的表記も小数だがみられる.なお、ICGという頭字語は薬剤のことを意味していて、FAと整合するのはICG angiography(または、ICGA, IA)であることに留意しておきたい.

 


監修:鹿児島大学名誉教授  大庭 紀雄 
 

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