視能矯正学 視能矯正学 視能矯正学 Orthoptics Orthoptics orthoptics
数十年の歴史をもつ視能矯正(orthoptics)は、眼科の臨床や教育や研究と密接に関連しつつ、独自の専門領域として発展してきた.眼科の診療を支援するさまざまな職種の中で高度専門職業人としての視能訓練士は最も大切な存在になってきた.視能訓練士(certified
orthoptist、CO)の養成機関が全国各地に次々に誕生している.眼科の医師が視能訓練士の教育や助言指導に努める必要があるのは過言を要しない.その教育目標や教育課題を設定するための基礎データを得る目的で、視能矯正学(視能学)に関連した医学論文を過去に遡って網羅的に集めて文献書誌学的に分析してみた.
米国National Library of Medicineの医学文献データベースMedlineに2004年9月初旬、インターネットでアクセスした.search
wordsを便宜的に『orthoptics, strabismus, amblyopia, binocular vision, visual
cortex』として検索すると、2003年末までに収載された視能学関連論文は合計13,950件であった.年間件数は70年代後半まで300件前後であり、80年代初頭からゆるやかに増加して90年代初頭に400件を越え、2001年以後は500件を越えている.
1.視能学論文の主題 過去10年(1994- 2003)のMedline収載論文4,598についてタイトルを主とし、抄録を従として論文の内容から主題(テーマ)を求め、便宜的に9項目に分類して集計した.各カテゴリーが占める割合にはかなりのばらつきがあり、両眼視の病理(斜視)関連が全体の25%と最も大きく、その他の分野は5ー10%を占めた.
1)視覚系の構造・生理・発達:視覚領皮質の構造や機能についての動物実験に加えて、神経生理学および神経心理学の知識と手技を活用した視覚認知や知覚学習(perceptual
learning)の研究が活発に行われてきた.視覚系の発達や劣化についても神経可塑性(neural plasticity)の概念を取り込んで考察されている.dyslexiaや読書困難といった臨床課題もしばしば検討された.
2)生理光学:屈折、調節、輻湊、瞳孔:視能学の基盤となる眼光学や生理光学分野として屈折や調節や輻湊の生理および病理(屈折異常、調節機能不全、輻湊機能不全)が一貫して検討されてきた.近視や遠視の発生機序や予防といった実務的な課題を中心とした結像系についても多数の論文が発表されている.
3)両眼視の生理:視能学関連論文の16.9%が両眼視機能の機構(機序)や属性をテーマとしている.具体的課題として最も多いのはstereopsisや
depth perceptionをキーワードとするもので約半数を占め、残りが binocular fusion, binocular rivalry,
binocular disparity, retinal correspondence, suppression, ocular dominanceを主題としている.なお,cyclopean
visionを扱った論文が37件あった.
4)両眼視の病理:斜視:広義の共同性斜視をテーマとする論文は視能学関連論文の25.2%を占めた.病型別には斜視弱視(strabismic
amblyopia)が最も多く,外斜視,垂直斜視(斜筋異常),微小角斜視,交代性上斜位(dissociated vertical deviation)、回旋斜視がつづいた.2000年代になって浮上した課題に網膜硝子体手術(黄斑回転術)の術後回旋斜視(ocular
cyclotorsion、cyclotropia)がある.斜視の手術治療の適応や術式や管理の問題は常に取り上げられ、先天内斜視(乳児内斜視)の手術時期がくりかえし検討された.工夫や改善がなされてきたのは筋肉の後転術や移動術であって前転術(短縮術)には関心が乏しかった.また,視能学で対象になる小児の斜視手術では、眼心臓反射や術後悪心嘔吐をいかに抑止するかが活発に研究され,ランダム化比較試験も行われている.
5)眼球運動:麻痺性斜視:末梢神経麻痺(動眼神経麻痺,滑車神経麻痺,外転神経麻痺)が最も多く論文主題に選ばれた.各種成因による眼振がさまざま専門領域で検討された.核上性眼球運動異常としてはDuane
症候群やskew deviationが取り上げられた.頭位異常(head tilting)は実に51件の論文のテーマになっており,こうした問題の臨床的意義を浮き彫りにしている.眼球運動関連の解剖学事項としてmuscle
pulleyを主題とした研究が進んで、眼窩病変による眼球運動異常や非共同性斜視の機序を考えるための基盤知識を提供している.眼球運動障害の治療としては,原因療法や筋肉の移動術などの手術に加えてbotulinum
toxinによる対症療法が活発である.
6)視能学臨床検査:乳幼児から小児を対象することが多い視能学の臨床検査では、通常の心理物理検査の代替となる検査法が工夫され、新しい検査法の開発や成績評価を主題とした多くの論文が発表されてきた.また、他覚的検査としての網膜電図や視覚誘発電位検査や各種画像検査に加えて、最近はfunctional
MRIなどを用いた研究が進んでいる.
7)弱視:斜視と並ぶ重要課題であることがうかがわれる.弱視の成因について神経生理学や神経心理学の視点から脳の発達や脳の可塑性と関連づけた基礎的実験や学習実験が活発に行われた.臨床病型としては斜視弱視(strabismic
amblyopia)、屈折性弱視(ametropic amblyopia)、視性刺激遮断弱視(stimulus deprivation amblyopia、image
degradation amblyopia)が検討された.また、薬物療法や訓練によって視覚の発達を積極的に促す方策が検討され、弱氏の予防や治療のランダム化比較試験も行われた.
2.視能学論文主題の変遷
過去40年間の視能学の研究テーマにはかなりの変遷があった.Medlineから検索された年間論文数の増進を勘案しても、年代の経過とともに関心がしだいに高まったテーマは稀ではない(逆に、初期には活発に研究され、やがて忘れられた主題もある).
3.視能学論文の掲載雑誌
視能学関連論文は多種多彩な専門誌に掲載された.専門領域を便宜的に9つに分類して整理すると、最も多いのは眼科専門誌で全体の約38.9%を占める.次いで、視能矯正/斜視/小児眼科専門誌(22.7%)、医学生物学諸雑誌(10.4%)、神経科学/神経学雑誌(8.7%)、内科/小児科/耳鼻科(8.9%)、心理学(4.0%)、眼鏡学(3.6%)、行動/人間工学(1.6%)、発達/遺伝(1.2%)の順であった.
4. 視能学論文の発信国・施設
著者の所属先住所が明記された論文は 3,944件で、少なくとも1件以上の論文を発信したのは57か国であった.国別シェアは米国が圧倒的にトップで、英国、ドイツ、カナダ、日本、オーストラリア、オランダ、フランス、中国、スペインが10位までを占めた.5%を超えるシェアをもったのは米国の36.4%、英国11.8%、ドイツ8.6%、カナダ6.1%.日本5.3%であり、これら上位5か国で全体の68%を占めた.順位10位までで全体の81.5%を占めた.
視能学関連論文の作成には多種多様の専門研究分野をもつ研究者が関係する.所属専門領域を便宜的に7項目に分類すると、眼科学が47.8%、神経科学(心理学、認知科学)が15.8%、基礎医学生物学が10.7%で、これら三者で75%近くを占めた.残りを視能矯正学が6.7%、小児科学が3.8%、眼鏡学(臨床眼光学
optometry)が7.5%、リハビリテーション科(内科)が8.0%を占めた.こうした多彩な背景をもつ研究者が論文を発表する場合には、それぞれが専攻する領域の専門誌に論文を発表するとみられた.
なお、大学病院眼科あるいは総合病院眼科に置かれた斜視外来や小児眼科や神経眼科といった専門診療部門から多数の論文が発表されている.『orthoptics/strabismus/
ocular motility』といった所属研究施設名を特記した論文は48施設からの264件であった.特に所属名に『orthoptics』を用いた施設は25か所があり、ドイツや英国に多くみられた.日本からは北里大学がDepartment
of Orthoptics and Visual Scienceという名称で論文発表している.なお、米国からの論文著者の所属名にorthopticsは見当たらないが『Amblyopia
and Eye Movement Center』と特記したのが1か所ある.
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