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第14号 12/20 2003
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トリアムシノロン硝子体注射後に起こる急性眼内炎
Acute endophthalmitis following intravitreal triamcinolone acetonide injection. Moshfeghi DM et al. AJO 2003; 136: 791-796 難治疾患の治療法開発は、予備的試行での好成績に啓発されて多数の症例で追認されて普及、やがて明るい楽観ムードの中で予期しなかった有害作用や重い合併症があちこちから散発的に報告され利害得失が論議される、というのがよくみられる経緯である.2001年以来話題になっているトリアムシノロン硝子体注射(intravitreal triamcinolone acetonide injection, IVTA)は、やっかいな糖尿病黄斑浮腫・ぶどう膜炎に伴う嚢胞様黄斑浮腫・網膜静脈閉塞に伴う黄斑浮腫に加えて、増殖糖尿病網膜症や滲出性加齢黄斑変性(CNV)にも有効であると報告されてきた.予期しなかった合併症として網膜剥離・硝子体出血・続発緑内障・続発白内障・偽前房蓄膿(pseudohypopyon)といった報告がある.現在は、その安全性の確認と実践段階での留意事項を検討すべき段階になっている.
 この論文は重篤な急性眼内炎を集めて検討したものである.米国の主要な大学病院での922例を調査して8例(0.86%)に眼内炎が発生したというものである.triamcinolone acetonide (Kenalog) 0.1 ml (4 mg)を硝子体に注射している.8例の臨床所見や検査所見や転帰を総括すると、

 基礎疾患:糖尿病黄斑浮腫(5/8)・加齢黄斑変性CNV (2/8)・ぶどう膜炎類嚢胞黄斑浮腫(1/8).
 リスク要因:糖尿病(5/8)・multi-use bottle (2/8)・緑内障濾過胞(1/8)・眼瞼縁(1/8).
 発症日時:median 7.5日(1-15日)
 初診時視力:median 20/1127 (20/60 - 光覚弁)
 初診時所見:虹彩炎(8/8)+ 硝子体炎(8/8)+ 前房蓄膿(8/8)+ 眼痛(7/8)
 硝子体試料菌培養:coagulase-positive Staphylo (2/8), streptobacillus (2/8), 他
 治  療:硝子体吸引または硝子体切除+抗生物質硝子体注射(8/8)
 最終視力median 20/400 (20/40 - 光覚なし).3例は光覚なし(1例は眼球摘出;1例は眼球癆)

(コメント:この報告はIVTAのあとに重篤な眼内炎が起こり得ることに留意するのが大切であることを指摘している.リスクがわずかだがあることを事前にわかりやすく説明して理解してもらう必要がある.調査資料から発症原因について糖尿病などの基礎疾患や免疫力低下、multi-use bottleを介した感染(multi-use bottle) は避けてsingle-use bottleの使用を勧める)などが検討されているが、一定の結論を引き出すのは無理である.IVTAの安全性はどのくらいか、さまざまな合併症や有害事象に結びつくリスク因子は何であるか、といった問題の検討の余地が残っている).

正常眼圧緑内障での眼圧下降治療はどんな場合に有効か?
Factors that predict the benefit of lowering intraocular pressure in normal tension glaucoma. AJO 2003; 136: 820-829. 最近のRCT studyによれば、正常眼圧緑内障(NTG)ではbaselineの眼圧を30%以上低くコントロールすると、視野異常の進行を抑えることができる.もちろん、こうした evidenceは統計事象であって、治療効果の個体差は大きい.加療してもすみやかに進行する事例もあれば無治療でも10年間も変わらない事例もある.これまで、視野異常進行のリスク因子には性、偏頭痛、乳頭部出血などがあるとされてきた.緑内障はmultifactorial disorderであるから、さらに多くのリスク要因が重なりあって視機能の低下に影響するものと思われる.
 この論文は、米国のcollaborative normal-tension glaucoma study groupが10年近くかけて行ってきたランダム化比較試験の成績の一部を発表したものである.目的は、降圧療法がNTGに好影響を与えることは既定の知識になってきたが、患者がどんな因子を備えていれば治療の恩恵(benefit)を受けるかを検討したものである.8個の因子を取り上げて、治療群(114例)と無治療群(80例)とをランダム化し、治療前の視野がどのくらい長く維持されるか(Kaplan-Meier life table analysis)、進行する場合にはどのくらいのスピードで進行するか(Slope of mean deviation global index over time)について数量的に比較している.結果を要約すると表の通りである(S: significant; NS: not significant).

視野異常/リスク要因 女性 乳頭部
出血
(+)
片頭痛
(-)
緑内障
家族歴
(+)
脳卒中
家族歴
(+)
血管障害
(+)
垂直
C/D比≦0.8
水平
C/D比≦0.7
1)視野の維持 S S S S S S S S
2)視野異常進行速度 S NS NS S NS S S NS
                 

この結果から各人の特徴によって治療効果がちがってくるのがわかる.たとえば、家族に緑内障がある場合には、降圧治療を続ければ9年経過しても80%の症例が視野を維持するのに対して、治療しないと5年後に視野を維持するのは50%に過ぎなかった.一方、緑内障の家族歴がない場合には治療してもしなくても5年後には50%が視野を維持するに過ぎない.同様に、不整脈・高血圧・狭心症・末梢血管閉塞などを合併する場合には降圧療法は有効で、5年後の視野維持率は治療すれば90%、無治療だと50% である.治療効果が期待できるのは、女性であること、初診時に乳頭部に出血があること、片頭痛をもたないこと、緑内障や脳卒中の家族歴があること、狭心症などの血管障害を合併すること、C/D比が0.7以下であることである.こうした要因をもつNTG患者で眼圧を低く維持することができれば、視機能を長く維持するのに有効である.
(コメント:NTGの患者は日本ほどではなくても米国にもかなりの数の患者がいるにちいがいない.眼圧下降が神経保護作用をもつといういくつかの evidenceがあるのだが、どの NTG患者にも有効とはいえないことは泣きどころである.どんな因子が影響するかがわかれば当面の治療のみならず神経保護研究の手がかりにもなるであろう.この論文ではいくつかの因子が降圧薬の有効性に影響することを明らかにしている.ただし、難点は個々の因子がそれぞれ独立に影響するとみなして検討しており、多数の因子を調べればまったくの偶然に統計的に有意の結果をもたらすことがありえることである.緑内障はmultifactorial の疾病であるから、多変量レベルの検討ができればもっと意味のあるデータが提供されるであろう.ただし、RCT研究で10年近くの長期計画をたて、しかも統計分析に耐える患者数を準備し長期にわたってdropoutなく確保するのは「言うは易く行うは難し」であろう.)

インパクトファクターを理解しよう

『インパクトファクター』は米国の Garfield が1955年に提案し、1972年の「Science」に算出方法を発表したのが始まりである.Garfield は文献調査会社 Institute of Science Informationを経営し、Journal of Citation Report というデータベースを作成した.90年代になると CDーROM に収められて世界中に普及した.我が国では数年前から話題になり、研究者の業績評価や研究費配分や昇進や教授選考などにさかんに利用されている.だが、数値が独り歩きして、その意味が正しく理解されているとはいいがたい.ある雑誌に掲載された多数の論文をマスとして、その雑誌が与えるインパクト(影響度)の平均的な視標を与える数値であって、個々の論文あるいは研究者個人の評価に直結するものではないことを認識するのが大切である(たとえば、ある年度にある雑誌に圧倒的な頻度で引用される論文が1篇あれば、その雑誌のインパクトファクターは急上昇するであろう).

● 定 義
「当該年度の前年度および前々年度の2年間に掲載された論文が source journal に何回引用されたかの度数を、その2年間の掲載論文総数で割った値」である.Japanese Journal of Ophthalmology (JJO) の2002年度のインパクトファクターの算出法を例示する.0.64という数値は過去2年間に掲載された論文が 2002 年度に引用された回数は平均0.64 回だったことを示す.数回にわたって引用されたものがある一方、一度も引用されなかったものも少なくないことを意味する.

 
             
JJO 2002 Impact Factor = 144/225 = 0.64 
JJO 論文の被引用度数
    2000 年度論文 94
    2001 年度論文 50
          total 144
JJO 掲載論文数
    2000 年度論文 114
    2001 年度論文 111
          total 225   

● 眼科学雑誌のインパクトファクター
インパクトファクターがつく雑誌は原則として英文雑誌に限られる.
眼科関係では 35 - 40 誌である.主要雑誌の 1992 年から 2002 年までの推移を示す.各誌とも経年的増加傾向がある.ランキングは IOVS、Ophthalmology, Archives, JCRS, AJO の順で、JJO は下位に低迷している.

JJO 掲載論文(2001-1993)の2002年度中の引用度数
発表年度 2001 2000 1999 1998 1997 1996 1995 1994 1993
引用度数 50 94 54 66 46 60 45 46 65
掲載論文数 111 114 87 82 74 59 45 62 63

● 留意事項 総説論文は原著論文よりも引用される機会が大きいから、総説を多く掲載する雑誌のインパクトファクターは大きくなる.JJO は総説がほとんどないから、数値は小さくなる. 引用調査の対象雑誌 source journal は英文誌が主体で非英文誌はごく一部である.JJO の論文が日眼会誌にいくら引用されても影響はない. 当該年度のインパクトファクターが過去2年間に掲載された論文の引用度数だけに依存することは、あまり認識されていない.したがって、たとえば 2002 年度のJJOのインパクトファクターには、2000年と2001年に発表された論文だけが勘案され、それより古い論文は対象にならない.だが、例示のように高い頻度で引用されている.引用度数がちょうど半分になる年数を cited half-life といい、JJOの2002年度資料は8.7年である. Ophthalmology 7.5年、Archive 10年以上、AJO 10年以上であるのに対して、IOVS 5.8年、EER 8.8年、CER 7.4年である.そこで、直近の2年ではなく、もっと過去に遡って算定する累積修正インパクトファクターを考えることができる.
JJO について計算してみたのが右図である.過去の論文に遡って引用度数を勘案すると、JJO の 2002 年度のインパクトファクターは 0.75 まで上昇することがわかる.同様の計算を他の眼科学雑誌について行うと、臨床雑誌では修正インパクトファクターが高くなる.
我が国の眼科から国際誌に発表される論文の世界シェアは第3位である.まもなく米国に次いで第2位になるだろう.だが、JJO のインパクトファクターがいかにも低いのはなぜだろうか.ボーダレスでグローバルの視点からは、そうした関心は意味がないのかもしれない.だが、自国にきちんとした英文誌があるのに外国誌を目ざす、といった明治開国以来の外国崇拝思想が未だにはびこってはいないだろうか.JJO のインパクトファクターを高めるには、1)引用が期待される自信作は先ずもってJJOに投稿する(もしもrejectされたら海外に乗り換える).2)諸般の事情で海外に送る時は、JJOの論文を積極的に引用する(それも、直近の2年に掲載された論文が有効であることを忘れないこと.日本人は自国の論文を引用したがらないと仄聞するが、フェアではない).

 

<編集後記>
近頃のはやり言葉に bioinformatics(medical informatics)があります.情報の発信と受信、分析、保存が迅速かつ正確になったのを受けて生命情報学(医学情報学)は独立した学問研究領域に成長しようとしております.インパクトファクターという言葉もよく耳にしますが、その実態は必ずしも正しく理解されていないきらいがあります.今回は眼科に関係するインパクトファクターの問題を考えてみました.
監修:鹿児島大学名誉教授  大庭 紀雄  

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