ニューズレター目次へ

創刊号 6/25 2002
近着最新情報 Archives of Ophthalmology June 2002 

 高眼圧症への眼圧下降薬投与はPOAGの発症を予防する.
 いわゆる高眼圧症(ocular hypertension, OH)の診療にはいくつかの問題がある。OHの一部が原発開放隅角緑内障(POAG)になることは実証されているが、OHにどう対応するかということについては意見が分かれている。すなわち、眼圧が高い事例(例えば、30 mm Hg以上)は別として、経過観察していて視神経損傷が起こり始めたら素早く対応すればよい、こうして80%の症例で医療費や副作用を避けることができる、治療による視神経損傷の遅延予防効果の実証はない、という見解がある。一方、通常の視野検査では20%から50%の事例で視神経損傷があっても見落とされ、ひとたび視神経損傷が始まると残存線維は損傷されやすくなる、自然経過だけを見るために長期にわたって定期的に通院させることは困難である、経過観察中に傍中心暗点が起こったりすると患者は苦情をいう、高眼圧によって網膜中心静脈分枝閉塞のリスクが増す、といったことから眼圧下降薬を一様に継続するのがよいという見解がある。近着の報告はこうした問題に有意義な解答を提供している。
 全米の緑内障研究施設の協力によるprospective randomized control study。1636例のOH(40-80歳、眼圧24-32 mm Hg、視野は正常)を眼圧下降薬投与群と経過観察群にランダムに割り付け、6年以上にわたって経時的に観察、視野と視神経乳頭所見をブラインドで評価、統計解析した。結果の要点は次のとおりである。
 眼圧下降の程度:薬剤投与群22.5%±9.9%、経過観察群4.0%±11.6%
 5年後のPOAG累積発症頻度:薬剤投与群4.4%、経過観察群9.5%
 薬剤投与に伴う全身疾患や特別の眼疾患の発生はない。
こうして、OHの段階での薬剤投与のPOAGへの遅延あるいは予防効果のあることが統計疫学的に示されたのであるが、個々のOH事例でのPOAGへのリスクには次の因子があった。OHと判定された年齢、水平および垂直cup-disc ratio、pattern standard deviation、眼圧値。加えて、角膜の中心部の厚さが問題である、すなわち角膜が薄いほどPOAGのリスクが大きい、ということが判明した。

 コメント. evidenceを求めて米国が国をあげて取り組んだ、それだけに評価すべき成果である。高眼圧症には眼圧下降薬を用いながら、10年いや20年といった長期にわたって医師も患者もねばり強く経時的に診療していくことが大切であろう。


<遺伝病*遺伝相談専門外来 開設のお知らせ>
曜 日: 火曜日、金曜日
(受付時間 午前9:00〜12:00、午後2:00〜4:00)
担 当: 大庭 紀雄

 眼科ではさまざまな遺伝病の患者に遭遇します。患者や家族にとって予後を含めた遺伝の問題への関心が高いのですが、十分な説明と理解のための面接には多大な時間が必要です。
 東京大学から鹿児島大学での長い大学病院生活でこの方面にも関心をもって仕事をしてきました。郷里の名古屋に帰ってきた機会に、地域の皆様に少しでもお役にたてればと考えております。
 表記の専門外来を開設して、前眼部や透光体の先天奇形や遺伝症候群、網膜色素変性など遺伝性眼底疾患を対象として、診断や遺伝相談に取り組むことにいたしました。適当な症例がございましたらご遠慮なく紹介くださいますよう、ご案内申し上げます。

 


 視神経乳頭小窩
66歳男性、数年来の右眼 blurred vision
視神経乳頭小窩(optic pit)視神経乳頭部の先天奇形-小窩形成

 小窩が微妙で網膜剥離が顕著な場合には、さまざまな疾患との鑑別に留意することが大切である。
 漿液性網膜剥離が後極部に併発することがある。網膜剥離は自然治癒することがあるが、再発したり遷延して病巣部の網脈絡膜の萎縮を残して視力低下や視野異常をきたすことが少なくない。
 網膜剥離をきたした場合には、硝子体手術が適応になる。視力低下などの後遺症を予防することができる。
 この症例は50 代後半という高齢で漿液性網膜剥離を発症し、それが遷延したために網脈絡膜萎縮を残した事例である。(大庭紀雄)

 





ブルガリア(1969)発行の薬用植物切手シリーズの中の一種でAtropa belladonnaを表わす。

アトロピン
Atropineは、ナス科植物 Atropa belladonna から抽出されるアルカロイドで、眼科では古くから常用されてきた。

Atropaの語源
ギリシャ神話に「運命」の女神(three fates)がある。一番上で、もっとも恐ろしい存在がAtroposである。末妹のクロトは人間の生命の糸を紡ぎ、真ん中のラクシスはクロトの紡ぐ糸の長さを測り、挟みをもったアトロポスに渡す。アトロポスは適当と思う長さに糸を切る、つまり人間の生命を決定づけるのである。アトロポスが断固として生命の糸を断ち切り、その結果取りかえしがつかなくなることと、アトロピンの毒性が強く致死的であることを結びつけて、そう名付けられたといわれる。ちなみに、Atroposの語源は、a-(否定)+tropos(向きを変える)で、「向きを変えることのないもの」という意味である。
なお、belladonnaは本来はラテン語で、bella(美しい)+donna(婦人)、すなわち「美しい婦人」を意味する.アトロピン点眼によって瞳が大きくなって眼がぱっちりと美しく見えることから、昔は婦人が好んで用いたことからこう呼ばれたといわれている。

 


<編集後記>

 「アイケア名古屋」が出発して一年が経過しました。安藤院長を中心としたスタッフの努力によって順調に歩きはじめております。
この後記を書いている私は、顧問として参入したばかりです。アイケア名古屋の活動を広く知っていただきたく、主として地域の先生方との間の掛け橋にでもなればと、こうしたニューズレターを適宜発行することになりました。
 情報過多ともいえる昨今ですが、気軽にご覧いただいて何かを得ることができるといった方針で編集してみたいと考えております。常設コーナーとして、「眼科最新情報」ではできるだけ一般的な最新知識を一つか二つ紹介します。「診療メモ」では皆様からご紹介いただいた症例の中から一例か二例を選んで紹介します。「EyeCare 小箱」では眼科にまつわる挿話を紹介していきます.第一回は日頃親しむアトロピンの語源をとりあげましたが、シャーロックホームズのコナンドイルが眼科医だったとか画家ゴヤが原田病を患って苦しんだとか、小箱の中味を探していろいろ書いていきますのでご期待ください。

大庭 紀雄

Copyright c 2001 EYECARE NAGOYA All Rights Reserved